土木遺産「支笏湖・山線鉄橋」のデジタル観光資源としての可能性に関する調査

掲載日:2019.03.17

土木遺産「支笏湖・山線鉄橋」のデジタル観光資源としての可能性に関する調査

この度、支笏湖ビジターセンター、千歳市観光課、NPO法人ホトニクスワールドコンソーシアム、千歳科学技術大学が協力し、「支笏湖・山線鉄橋」と当時の鉄道の模型(ジオラマ)を作成、模型のVR画像を生成しました。
また、作成したVR画像を再生できる「支笏湖・山線鉄橋」をデジタルガイドブックとしてまとめました。

作成した模型とデジタルガイドブックは、千歳・支笏湖氷濤まつりの来場者を対象に、模型の展示やデジタルガイドブック(iPad)の観光資源としての可能性について調査に活用しました。
調査の取り組みなどは、PWC観光振興研究クラスターの活動紹介として、3月14日、まちライブラリ@千歳タウンプラザにて発表しました。

支笏湖観光調査報告

報告者: 岡本凌,西島花音,村井康紀,伊藤優,鈴木統万,曽我聡起(千歳科学技術大学 曽我研究室)

日時 2019年2月16日(土)
最終日前日の13:00~17:00 (17:30からは花火の打ち上げが行われた)
実施場所 支笏湖氷濤まつり会場
参加者 岡本、西島、村井(千歳科学技術大学 曽我研究室)

事前準備として10:00から調査場所の設営を行なった。(模型の移動、iPadの設定など)
模型の移動は、支笏湖ビジターセンターの木下センター長にご協力いいた。

調査詳細
  • 調査は千歳科学技術大学 曽我研究室の岡本、西島、村井に加え、ボランティアの高校生を加えた4名で、プレハブ小屋3つ程度の広さの氷濤まつり会場内 休憩所で行なった。
  • 休憩所には鉄道模型を設置し、模型を動かす実演を行なった。
  • 休憩中の観光客に声をかけ協力を依頼し、同意して頂いた方にiPad上のデジタルガイドブックを使用していただいた。
  • 模型に興味を持ち近づいて来た方や、子どもの親に協力を依頼することも多くあった。
  • 模型を前にしてアンケート調査を行う場合と、アンケート終了後に模型や実際の鉄橋がある場所を紹介する場合があった。
  • 観光客がデジタルガイドブックを使用する際は使用方法は説明せず、使い方が分からなくなった時に、その都度説明を行った。
  • デジタルガイドブックを使用後、Googleフォームでアンケートを行い、意見・感想を入力していただいた。
  • 調査の結果、70件のアンケートデータが得られ、内3件が外国人旅行客(タイ、韓国、マレーシア)のデータであった。
  • 会場内にはインバウンド客も多かったですが、団体バスでの移動する方が多く、休憩施設を利用する人たちは少数であった。

調査中の様子
  • 調査中は千歳市公共Wi-Fiを利用しアンケートフォームにアクセスしたが、Wi-Fiの接続が切れが多発した。
  • 親子連れの観光客が多く休憩所内も同様であった。
  • 当日は外気温が高かったためか、休憩所に立ち寄る人は普段より少なく感じられた。
  • 鉄道模型に興味を持ち近寄ってくる子どもは多かった。
  • 子どもの様子を見にきた保護者の方にアンケートをお願いすることも多くあった。
  • 調査終了間際の17:00には休憩所内に観光客が増加し、大変混雑して調査が滞るほどであった。
アンケートの考察

支笏湖氷濤まつりを訪れた観光客は、年齢と当日の様子から、家族連れの観光客が大半を占めていることが分かった。これは氷濤まつり会場に子ども向けの展示物が多いことが関係すると考えられる。

観光客の住まいを調査したところ、対象者70人の内で支笏湖氷濤まつりでは85.1%が道内からの観光客であった。
そのうち、道内観光客に絞り見てみると千歳市(16.4%)、苫小牧市(19.4%)、恵庭市(6.0%)などの比較的支笏湖に近い町からの観光客が多く、3つの市をあわせると41.8%であった。
また、札幌市は34.3%であった。
今回の調査は千歳・支笏湖氷濤まつりの休憩所で行なったが、休憩所を使用する観光客の層に偏りがある可能性がある。
アンケートの結果からもわかるように外国人観光客の割合が少ないように思えるが、これは観光ツアーで時間制限があり、休憩しないで氷濤まつりを観る人が多かったためと感じる。

調査結果から観光資源としてのVRは観光客にとって比較的好印象であったと言える。
その理由として、当時の山線鉄橋の様子を「立体的に」「映像で」見られたことがアンケートの自由記述欄から読み取れる。
VRは観光客の増加につながると思いますか?という質問についても好印象であった。
観光客が望むVRを用いた観光資源としては、支笏湖湖底のVR映像や四季折々のVR映像などが多く普段は見られない、または行かなくても見られるものが多く挙げられた。

今回は、実際に模型が近くにある状態での調査だったため、特に子どもはまず模型に興味を示し、その後デジタルブックを見てもらうということが多かった。
現物の模型では見ることができない模型の中央からの視点で見渡すことができるという体験は、VRでしかできないものであり、好印象であった。
またアンケートにおいて新たなVRコンテンツの案を出してもらう所でも、水中や空の上からなど、普段では見ることが出来ない景色に対するVRを望む声が多かったため、観光ブックの中にVRコンテンツを取り入れる際には参考にしていくべきだと感じた。

VRコンテンツは調査時の反応を見ても観光資源として十分足り得ると感じた。そもそも、VR自体に目新しさを感じ喜んでくれる人も多くいた。
今回のように、動作確認をした端末にVRを内蔵したデジタルブックは、端末を動かして360度映像が見ることができるのは手軽で良いコンテンツだが、古い端末やOS、アプリケーションのバージョンなどの動作環境によってジャイロ効果が再現出来ないものもあるため、観光客自身の端末に自由にダウンロードさせるようなサービスの場合には、「どの端末で」「どの様に見せるのか」、その仕様を決めることが大切である。

このように、デジタルガイドブックの用途や目的については、作成前に熟慮する必要がある。
対象が、現地に訪問した観光客なのか、リピーターなのか、観光地に来る前の人なのか、などである。
いずれにしても、デジタルブックは紙媒体では表現できない様々な表現手段があり、魅力的な媒体であると改めて認識できた。

※アンケートの詳細については、添付資料「アンケート集計結果」に示す。アンケートは選択肢:低評価=1 高評価=5
 画像はアンケートからの抜粋。

終わりに

支笏湖山線鉄橋を題材にVRを取り入れたガイドブックを使用し、観光資源としての価値について調査を行なった。今回のコンテンツは、山線鉄橋本体や模型との相乗効果が、訪れた観光客に好意的に受け入れられた。
また、観光資源としてのVRを積極的に活用する方法として、支笏湖に訪れる前に観光客に会場のイメージを湧きやすくさせたり、支笏湖の各地点にVRビューポイントを作成し、四季折々の映像で再現をするなどのアイデアが考えられる。

3月14日には、PWC観光振興研究クラスターの活動紹介として、まちライブラリー@千歳タウンプラザにて発表を行った(「VR内蔵デジタルガイドブックの作成と公開に関するトークショー」)。
会場には、支笏湖ビジターセンターから模型を移送し、調査当日と同じように参加者にはiPadを配布、デジタルブックを見ながら、木下氏による解説を交えてデジタルブックと観光の関わりなどについて意見を交換した。
こうしたインタラクティブな要素を含むデジタルブックを用いることは、ディスカッションの場においても有効に利用できる可能性を示したことは、新たな知見であった。